精神疾患で障害年金を受給するためには
日本では精神疾患になる人は300万人以上いると言われています。
精神疾患の中でも一番多いのがうつ病です。次に多いのが統合失調症、不安障害、認知症と続きます。特にうつ病と認知症を患う人が著しく増えています。
私も以前、勤めていた生命保険会社でうつ病に罹った仲間や給付金を請求されるお客さまを見てきました。
現在、障害年金という国が運営する保険制度が有りながらこの制度を知らず、また知ったとしても複雑な年金制度や申請方法により障害年金を受給できない方が多くいらっしゃいます。
京都障害年金相談室ではうつ病等の精神疾患に直接かかわることは出来ません。しかし、お客さまに経済的安定をもたらし、障害年金を必要としている多くの方に、まずはこの制度を知っていただければと思います。
精神の障害の認定基準
(日本年金機構の資料を読みやすく抜粋・修正・一部例示しています)
各傷病別における認定要領
認定要領において、「精神障害は多種であり、その症状は同一原因であっても多様である。したがって認定にあたっては具体的な日常生活の生活上の困難を判断するとともに、その原因及び経過を考慮する。」とされており、下記のA~Eの5つの区分に分類されています。
A.統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害及び気分(感情)障害
①統合失調症は「罹病後数年ないし十数年経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面急激に増悪し、その状態を持続することもある」としています。
この為、「統合失調症として認定を行うものに対しては発病時の療養及び症状の経過を十分考慮する」としています。また、統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合認定の取り扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。
②気分(感情)障害は、本来、「症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものである」としています。したがって「現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮する」としています。
これらの一方で、「人格障害」、「神経症であって、その症状が長期間持続し、一見重症なもの」については原則として認定の対象とならないとされています。これによりパーソナリティ障害、パニック障害と診断された場合は原則として対象外となります。
B.症状性を含む器質性精神障害
先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経などの器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患等による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害が該当します。脳疾患後遺症による高次脳機能障害やアルコール、薬物の使用によるものも含まれます。脳血管疾患による肢体障害等にであって、初診日から6か月経過後の症状固定日は初診日になりますが、高次機能脳障害には症状固定日は無い為、請求するには初診日から1年6か月待つ必要があります。
また、症状性を含む器質性精神障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合認定の取り扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。
C.てんかん
てんかんは発作のタイプが下記の通りに区分されます。
A:意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
B:意識障害の有無を問わず、転倒する発作
C:意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
D:意識障害はないが随意運動が失われる発作
抗てんかん薬の服用や、外科的治療によって抑制されている場合は原則として認定の対象にならない、とされています。また、てんかんとその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合認定の取り扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。
てんかんのケースでは、上記のA~Dの発作の重症度と頻度に加えて、発作が起きていない状態においても、精神神経症状や認知障害などが出現することが認定の基準とされています。裏を返すと、うつ症状などの精神症状を伴わないてんかんは、認定されにくいということです。実際に、他の精神疾患に比べて軽くみられがちな事例が後を絶たないのが現状です。
D.知的障害
「知能指数のみに着眼することなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断する」というのが認定にあたっての基準となっています。また、知的障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合認定の取り扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。
一方、知的障害を持ちながらの就労について、
「雇用契約により労働に従事していることをもって、直ちに日常生活が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、ほかの従業員との意思疎通の状況等を確認する」
となっています。
E.発達障害
発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいいます。
認定において「たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して行う」とされています。また、発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合認定の取り扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。
就労状況については上記の知的障害と同じ判断基準になっています。
精神の障害の障害認定日
精神の障害は原則として症状固定による障害認定日の到来は無いものとされています。
どの場合も初診日から1年6か月経過して障害認定日を迎えることとなり、請求が可能となります。
二十歳前傷病については二十歳到達または初診日から1年6か月経過のいずれか遅いほうとなります。
知的障害・発達障害の多くは二十歳前傷病となる為、二十歳到達によって請求が可能となります。
等級判定のガイドライン(てんかんは適用対象外)
平成28年9月1日より、精神疾患の障害における「等級判定ガイドライン」の運用が開始されました。
これまで社会保険労務士の間でも、「障害年金の認定に地域差があるのでは」と噂されておりました。
各都道府県によって審査される障害基礎年金の不支給率に最大6倍の格差(主な原因は精神障害についての不支給率の差)があることが報道されたことも記憶に新しいと思います。
その後、厚生労働省が地域毎に認定の差があったこと認めたうえで、全国共通の基準である「等級判定ガイドライン」が設けられ、運用が始まりました。
具体的には、精神の診断書に記載する「日常生活能力の判定と程度」が点数化されることで、等級を客観的に判断できるようになりました。
障害等級の目安
【程度】
「日常生活能力の程度」の判定は請求者の援助の必要性に合わせて(1)~(5)のいずれかに〇がつけられます。
(5)精神障害(知的障害)を認め、身の回りのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(4)精神障害(知的障害)を認め、日常生活における身の回りのことも、多くのの援助が必要である。
(3)精神障害(知的障害)を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
(2)精神障害(知的障害)を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である。
(1)精神障害(知的障害)を認めるが、社会生活は普通にできる。
【判定平均】
・1点:できる
・2点:おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
・3点:助言や指導があればできる
・4点:助言や指導をしてもできない若しくは行わない判定項目
(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬
(5)他人との意思伝達および対人関係
(6)身辺の安全保持及び危機対応
(7)社会性(現行での金銭出入・公共施設利用等)
程度 | ||||||
(5) | (4) | (3) | (2) | (1) | ||
判 定 平 均 |
3.5以上 | 1級 | 1級又は 2級 |
|||
3.0以上3.5未満 | 1級又は 2級 |
2級 | 2級 | |||
2.5以上3.0未満 | 2級 | 2級又は 3級 |
||||
2.0以上2.5未満 | 2級 | 2級又は 3級 |
3級又は 3級非該当 |
|||
1.5以上2.0未満 | 3級 | 3級又は 3級非該当 |
||||
1.5未満 | 3級非該当 | 3級非該当 |
仮に、 「日常生活能力の程度」において、
(1)適切な食事 →助言や指導があればできる(3点)
(2)身辺の清潔保持 →助言や指導があればできる(3点)
(3)金銭管理と買い物 →助言や指導があればできる(3点)
(4)通院と服薬 →助言や指導をしてもできない若しくは行わない(4点)
(5)他人との意思伝達および対人関係 →助言や指導があればできる(3点)
(6)身辺の安全保持及び危機対応 →助言や指導をしてもできない若しくは行わない(4点)
(7)社会性(現行での金銭出入・公共施設利用等) →助言や指導があればできる(3点)であり(3点×5+4点×2=23点 平均点は23÷7=3.2点)、
「日常生活能力の程度」が「(4)精神障害(知的障害)を認め、日常生活における身の回りのことも、多くのの援助が必要である」
の場合は上の表に当てはめると2級に該当する形となります。
「日常生活能力の程度」の判定は日常生活の各場面において単身で生活するとした場合に可能かどうかを4段階で評価したものの平均を計算します。
ご自身の状況が主治医に正確に伝わっているかが何より重要です。年金を請求する前に、診断書の内容が本当にあなたの状況を反映しているかチェックすることが大切です。
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